公益社団法人 国際日本語普及協会(AJALT)
所属講師 津田 訓江
新しい言語を学習するとき、最後まで残りがちなのが発音の問題でしょう。とくに、成人かそれに近い学習者の場合、学習言語の語彙や、文法・文構造などの理解を進めることに追われる中、発音になかなか時間を割けないという現実があります。とは言え、せっかく良い発言をしているのに、発音のせいで相手に伝わりにくく、印象を悪くしてしまうのでは困ります。こうした点を改善するための方法を考えてみましょう。
アクセントとイントネーション
発音の中でも中国語が母語の日本語学習者にとって手強いのは、イントネーション(抑揚)だと言えそうです。日本語の単語一つひとつに付いている音の高低をアクセントと呼びますが、これは比較的容易に学習者に受け止められるようです。しかし、イントネーションは、話者が何をどう伝えたいかによって、単語レベルを超えて現れる音の高低であり、その特徴に慣れ、身に付けるのは、そう簡単ではありません。母語の干渉もあり、結果として一つひとつの単語の高低アクセントを強調したままで文を話してしまう、つまり音の高低がありすぎる、イントネーションが強すぎるということになってしまうのです。
シャドーイングとは
この問題解決に有効な手段の一つにシャドーイングという方法があります。シャドーイングとは、音声を聞くそばから、まるで影のようにそっくりまねしていくトレーニング方法で、同時通訳者の重要なトレーニングのひとつにもなっています。日本語学習でも、音声を聞きながら、すぐ後から同じように発話すると共に自分自身の音声も聞き続けるというこの練習を、短時間、継続的に繰り返し行うことで、聞き取って理解する力、自然に話す力が身に付くことが期待されます。
シャドーイングの方法
① モデル音声の0.2〜0.5秒あと
すぐ後から真似ていくと言いましたが、どのぐらい後か、そのタイミングが大切です。音声の0.2〜0.5秒あとから付いていき、0.2〜0.5秒あとに言い終わるようにします。図に示したようなイメージです。
うっかりすると1〜2秒遅れのシャドーイングになってしまいがちです。1〜2秒以上遅れて行うシャドーイングは、高度な同時通訳者のトレーニングに使われるシャドーイングで、ここで目指そうとしているものではありません。音に動物的に反応して、すぐ後に真似し始めるのがコツと言えます。なかなかうまくいかないときは、目をつむってやるよう促してみましょう。音に敏感に集中できて、うまくいきます。
② 1回10分程度を継続的に
シャドーイングは真に集中するとかなり疲れるものです。短時間でサッと切り上げることが長続きするコツです。だいたい1回10分程度がよいとされ、例えば、毎回授業の冒頭で実施すると、音声に集中し、しっかり声を出すことで、授業が良いリズムで始まり、活性化につながるようです。1度に無理せず、頻度を多くし、継続して行いましょう。即効とはいかないようですが、1学期が終わる頃には、学習者自身も手ごたえを感じるようになるのではないでしょうか。
ここまで、シャドーイングの概要をご紹介しましたが、何より大切なことは、指導に当たる教師自身がシャドーイングにポジティブな気持ちで臨むことではないかと思っています。
では、もっと詳しい指導方法については、またの機会といたしましょう。
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