公益社団法人 国際日本語普及協会
地域日本語教育担当理事 関口 明子
▼今までの日本語の教科書の多くは留学生を対象に書かれていて、1年間かけて日本語の文法に沿って「聞く、話す、読む、書く」を勉強するようになっています。しかし、技能実習生や働く外国人に必要な日本語は教科書になかなか出てきません。このような一般的な教科書を使っていると職場で役に立つ日本語が、あまり使えるようにならないのが現状です。
▼『あたらしいじっせんにほんご』は長期間の日本語学習が望めない技能実習生や働く外国人のために作成したものです。私はその著者の一人としてできるだけ多くの方々にこの教科書の意図、使い方を理解して使ってほしいと思っています。
▼まず教科書に入る前に以下の2点を行ってください。
(1)通訳を通して自国の学習方法と違うことを説明する。
最近は自国で日本語を学習してくる人々が増えました。そこで自国での学習の仕方と違うことを通訳の方を通して説明をします。学習者の頭の中には自国で学習してきた日本語がたくさん入っています。しかし、来日して日本人に話しかけられても口から日本語がでてこないことが多いです。
日本での勉強はその頭の中にある日本語が適切な状況で口から出てくるための勉強であること、つまり日本語の運用力をつける、コミュニケーションができるようになることが目的であること、椅子にすわって教師の話を聞いているだけではなく、絵や実物を使ったり、動作をしたりするやり方であることなどを話します。
やり方の違いに戸惑ったり、これは勉強ではないと思ったりする学習者もいますので、最初にきちんと説明する必要があります。
(2)「ていねいなことば」と「ともだちことば」は一課から継続的に学習する。
日本語には「ていねいなことば」と「ともだちことば」があることを最初から理解してもらいます。一般的な日本語の教科書は丁寧な「~です」、「~ます」の形の表現を最初ずっと勉強します。「ともだちことば」はなかなかで
てきません。しかし学習者の実習の現場、働く現場は、その丁寧な言い方より、「こっちへ来い」「まだ!」「向こうへ運んで」「ここに置いて」「スイッチ切れ!」などの表現をよく聞きます。学習者は教室の中での日本語と現場の日本語のギャップにびっくりします。もちろんギャップはあるのは当然ですが、できるだけ、少しでもそのギャップを少なくすることが大切だと考えます。『あたらしいじっせんにほんご』は一課から両方が出てきます。一課から慣れていくことが大切だからです。実習生や働く外国人の現場を考えると、学習者はできるだけ「ともだちことば」を聞き、意味をとる練習が必要です。
しかし、日本語の使い分けがまだできない実習生や働く外国人は、「ていねいなことば」を使うようにした方が安心です。「ともだちことば」を聞くことに慣れること、そして自分から話す言葉は「ていねいなことば」というこ
とがこの教科書のコンセプトになります。
では実際に授業でこの違いを継続的に練習する方法について説明します。ホワイトボードに以下のように日本語と翻訳と4枚の絵を貼ります。
①「ていねいなことば」と言いながら翻訳語を指します。「おはようございます」と言いながら上司に挨拶している絵を指し、丁寧にお辞儀をしながら教師が「おはようございます」と言います。
②「ともだちことば」と言いながら翻訳語を指します。「おはよう!」と言いながら友達同士で挨拶している絵を指し、明るく元気に「おはよう」と教師が言います。
次に同様に「ていねいなことば」と言いながら翻訳語を指して、「ありがとうございます」と言って上司から何かもらっている絵を指します。「ありがとう」と言いながら同様に友達から何かもらっている絵を指します。それを繰り返し、学習者だけに言ってもらいます。数日間は黒板の端にそのままセットしておくいといいでしょう。
説明なしでも大丈夫です。これで「ていねいなことば」と「ともだちことば」の違いは最初からでも理解ができます。
さあ、これで一課から勉強する準備ができました。
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