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日本語教育・再考(Web版)

 

技能実習生や働く外国人に対する日本語指導を考える〈その2〉
~周囲を巻き込むコミュニケーション力をつける~(2013年1月1日号掲載)

公益社団法人 国際日本語普及協会 新野 佳子

 技能実習生や働く外国人は、「病状が伝えられない、何を注意されているか分からない、叱られた時に説明できない、ホームシックになっても相談できない」などのストレスを常に抱えています。また「指示が伝わらない、報連相が十分に行われない」など、企業内コミュニケーション不足は、トラブルやミス、仕事の能率低下を招きますから、日本語力アップは、学習者、企業双方にとって大きな課題です。
 日本語上達の秘訣は、職場や日常生活の中で、実際に本物のコミュケーションを数多く重ねることですが、コミュニケーションは文法や読解のように独習できませんし、限られた時間数の教室授業だけでは足りません。そこで、教 室外の環境も積極的に活用し、周りの日本人を巻き込んでいくことが必要になります。間違いを恐れず自分から積極的に話しかけ、周りを巻き込める学習者もいますが、相手の日本人が嫌そうな顔をしたら、二度と話しかけられない という学習者も少なくないでしょう。日本人も外国人に配慮した話し方で、上手に会話をリードしてくれる人ばかりとは限りませんから、コミュニケーションを続けていくためには、学習者の方からも、周囲が「(外国人と)話し続けたい、また話したい」と思うような日本語で働きかけることが重要なのです。つまり日本語教師には「学習者が周囲と良好な人間関係を築くための日本語指導」という視点も求められるということです。
 一般的に日本人は、外国人の助詞の間違いや、たどたどしい日本語は許せても、態度や礼儀、マナーが悪いのには甘くない人が多いのではないでしょうか。言葉は間違えても意味が伝わればいいのですが、こうしたもので感情を害すと、その後の人間関係に影響してしまいます。コミュニケーション成功の鍵は、「感じが良く好感がもてる」こと。これに成功できれば、シャイな外国人でも話しかける勇気が続きます。
 TPOに合わせた挨拶、適切なことば使い、礼を述べる、謝罪するなど、周りの人間と上手くつき合うための日本語は、言葉だけを学ぶのではありません。「相手との距離の取り方、声のかけ方やタイミング、表情、身振り、お辞儀 の角度(軽い会釈から深いお詫びまで様々)や頭を起こすタイミング」など、非言語を含め総合的に学びます。これらの学習には、お互いに観察しながら話し合う、自国のジェスチャーと比べるなどの活動ができますし、悪い言葉使いやマナーなどは、(学習者ではなく)教師が演技してみせ、学習者の気づきを促すといいと思います。また、個々の表現だけでなく談話形式でも学びます。分からない言葉一つ聞くのでも、いきなり「これは何ですか」ではなく、「すみません、ちょっといいですか」などの切り出しから始まり、最後は「ありがとうございました」とお礼で会話が終わる流れを、動作なども含めて練習します。自明のようですが、これらは互いの文化を尊重し、文化的な違いを理解した上での練習だということです。なぜ頭を下げるのか、なぜ悪くないのに謝らなければならないのかといった疑問の解消や、地域の習慣や職場のルールを納得して守っていくためにも大切だと思います。挨拶を交わす関係になったら、天気、体調、近況、ニュースなどの話題で、もう少し会話を発展させます。「おかげさまで。」「せっかくですが。」など、人間関係をほぐす便利な言葉が使えるようになるといいですね。
 (外国人従業員は)いつも仲間同士で話しているという日本人の不満も聞かれますが、昼食や休憩時に、日本人と雑談できるようになりたいという外国人は多いのです。面白いテレビ番組や買い物情報を教えてもらったり、日頃の買い物や飲み会に誘ってもらったり、朝会、社内のスポーツ大会や小旅行、地域の活動や文化交流に参加したりと、行動が発展すればするほど、コミュニケーション力もつき、生活も充実します。周りを巻き込める学習者を育て、教室外の世界へ学習者の背中をそっと押してあげるのも、日本語教師の役割ではないでしょうか。

当協会では現場のニーズに合わせ、技能実習生や働く外国人のためのテキスト『あたらしいじっせんにほんご』を開発しました。各国語翻訳、れんしゅうちょう、かなワークブックなど、副教材も充実しています。詳細は、当協会HPをご覧ください。

『あたらしいじっせん日本語』
(財)国際研修協力機構監修 2,520円(本体2,400円)
■翻訳各国語版
(英語版、中国語版、インドネシア語版、ベトナム語版)各1,575円(本体1,500円)
■補助教材
『かなワークブック』 525円(本体 500円)
『れんしゅうちょう』 1,575円(本体1,500円)

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