今号より、当センターが中国の教育機関に派遣している日本語教師の方々、研修所にて実習生の教育に携わる日本語教師の方々、そして実習生受け入れ企業にて教育を担当されている方々を主な対象として、日本語教育をテーマとするコラムをお届けします。執筆には、当センター中国派遣日本語教師の講習を長年担当している、公益社団法人国際日本語普及協会の講師陣が当たられます。ご期待ください。
公益社団法人 国際日本語普及協会 新野 佳子
現場で働く外国人、受け入れ側の機関・組合から、「指示を聞いても理解できない」「わからなくても『分からない』といえない」「作業の進捗報告が難しくて確認できない」など様々な声を耳にします。外国人実習生や働く外国人に必要な日本語とは何でしょうか。またどのような教え方が効果的なのでしょうか。
働く外国人も、一般の外国人と同様、周囲と良好な人間関係を築く日本語、電話や買い物、交通機関の利用、お礼や謝罪、許可求め、身体の不調を訴えるなど<生活の日本語>を必要とします。それに加えて実習や仕事の現場では“指示を理解して行動する”“指示がはっきりしないとき、分からないときは質問したり聞き返したりする”“自分の行動、手順が正しいかどうか確認する”“作業を報告する”“職場のルールを守る“などの行動が要求され、危ない、触るな、火気厳禁など“危険回避のための日本語”も不可欠です。
こうした<仕事の日本語>では、“日本語がわかった、話せた”というだけではなく、実際に行動できることが目標ですから、座学だけでなく動作や実演をする練習を工夫し、学習者が実際に「できる」まで指導します。
例えば“指示を聞きとって対応する”では、学習者の日本語力に合わせて簡単なものから難しいものまで色々な指示を出し、「はい、分かりました」で終わりではなく、実際に行動してもらいながら、分からないときは分からない、曖昧な指示には、聞き返しや質問、確認ができるようにします。「その箱、あっちに持ってって」の指示に対して、「はい」と返事し適当に置くのではなく、「この箱ですね」(確認)、「あっちは、どこですか」(質問)、置いたあとに「ここでいいですか」(確認)と聞けるようにするのです。「明日の会議は10時半から第2会議室で行
います」の連絡に「分かりました」と答えても、聞き間違えていることもあります。学習者自身が「明日の会議は10時半から第2会議室ですね」と確認の習慣をつけるのが一番ですが、「会議は何日、何時から、どこでありますか」と質問してみるといいでしょう。
使える日本語にするために、教室活動にはTPR(注1)やVT法(注2)などを取り入れ、体を使って覚えるのも有用です。重要なことは、教室活動と現場を結びつけること、教室で起きる実際の状況を逃さず利用すること、擬似ではなく本物のコミュニケーションをすることです。学習者が授業に遅れてきたときに、お辞儀の仕方、理由の述べ方などの文化的情報も含めて謝罪表現を指導する、教師には「丁寧なことば」、友達には「友達のことば」と使い分ける、生活の中の重要な文字は、必要なものをまとまりとして読めるように街や会社で見る実際の標識や看板の写真を使うなどです。また、教科書の会話は学習者用に応用する、その日の天気やニュースを話題にする、学習者が沢山話せるように質問を工夫して日常会話をするなど、本物のコミュニケーションを重ねることで、学習者は日本語でのコミュニケーションの楽しさを知り、自信をつけていきます。
このような現場志向の体得的学習を目指し、現場のニーズに応える日本語教材として当協会では『あたらしいじっせんにほんご』を開発しました。巻末にはフルカラーのイラスト・写真付き「絵入り分類語彙表」もあります。各国
語翻訳、『れんしゅうちょう』、『かなワークブック』など、副教材も用意されています。詳細は、当協会HPをご覧ください。
(注1)TPR(自然な速さで話される日本語を聞き取って行動する練習)
(注2)VT法(身体リズムを取り入れ日本語の発音になれる練習)
『あたらしいじっせんにほんご技能実習編』
(財)国際研修協力機構監修公益社団法人 国際日本語普及協会著
(B5判 2,400円+税)
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