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中国労働事情レポート(Web版)

「都市」と「農村」問題

在中国日本国大使館二等書記官(連合派遣)三橋 沙織

 世界の各先進国がかつて経験したように、中国経済の急激な発展に伴い、中国国内でも必然的に農村から都市への労働力移動をもたらしています。改革開放以来、急速な成長を遂げてきた中国社会では農村から都市への労働力移動過程において、非農業の仕事に従事する「農民工」と呼ばれる層が存在しています。農民工は出身地である鎮郷(日本の町村)の企業や都市部に出て就労する農村戸籍者を指し、中国特有の都市戸籍・農村戸籍の2元体制により、1950年代に戸籍制度登録条例を公布した後に生み出された層です。2014年に中国国家統計局が発表した統計によると、農民工は2億7395万人に達し、4年連続で減少しているものの、依然として総人口の2割を超える農民工が存在しているのです。
 農民工の問題の本質は、彼らの労働力は中国の経済発展を支え、都市部の経済成長に大きく貢献しているにも関わらず、農村戸籍であるが故に、都市戸籍者が有している失業・医療・年金・労災等の社会保障が不足し、日常生活の設備や居住環境が都市戸籍者と比べて著しく欠如しており、とりわけ都市部で働く農民工には、都市住民との間にあらゆる面で格差が存在しているところにあります。この問題は中国社会の安定、発展のために放置できない社会問題となっており、農民工に対する社会的関心はますます高まっていますが、それには2つの背景があります。
 1つは、現実には農民工が「世界の工場」、また今日では「世界の市場」と呼ばれる中国の労働力を支えていること、もう1つは中国国内、特に沿海部において労働力の供給不足が発生していることです。労働力不足は、就職、失業、医療、年金等の社会保障面における農民工への制度的差別が改善されていないことに起因し、その他には就業・進学などの工場や政府主導の中西部開発戦略等による内陸部の産業開発に伴い、内陸部で雇用先を見つけることが容易になっていることも理由の1つです。
 そのような状況下でも、農民工の問題は根深く存在しており、中でも労働条件や社会保障に関しては深刻です。中国の農村余剰労働力の移動、工業化、都市化の順調な発展に伴う中国の調和社会構築の成否にも関わっており、農民工が現中国の社会保障の課題の一つとしても、注目されています。むろん、農民工に対しての社会的関心、それに伴い中央政府の農民工問題に対しての認識が高まっている流れの中で、農民工をめぐる政策も大きく転換してきています。従来の農民工の移動管理・就業政策中心から、特に農民工の就業・生活に関わる諸問題を解決すべく対策が打ち出され、農民工の就業制限の緩和や労働保護、子女教育、社会保険への適用等の領域に改善がみられます。
 特に、2008年の労働契約法、就業促進法、労働争議調停仲裁法等の新しい法律では農民工も適用対象とされ、都市部の人々と同じく保障の権利を有すると明記されました。このような政策転換下で、多くの方面で改善が見られる一方、農民工の就労、生活に関わる問題は依然存在し、特に社会保障等の問題の解決は図られていないのです。実際に、社会保険の加入率を数字で見ると、労災保険26・2%、医療保険17・6%、養老保険16・7%、失業保険10・5%という数字です。
 このように、農民工の問題が注目される中で、現時点では農民工が労働組合に加入しているケースは多くないこともあり、個人的にはこの点は労働組合に組織される権利を得ることで著しく改善するのではないかと考えており労働組合の視点、また政府の法整備の視点で、農民工の問題についての動向に注目していきたいと思います。

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