拓殖大学大学院経済学研究科 田中 修
1〜3月期、中国経済は順調な回復を見せたが、4〜6月期に入ると、回復のペースがダウンした。このため習近平総書記は7月24日、党中央政治局会議を開催し、当面の経済情勢を分析するとともに、年後半の経済政策を手配した。
まず経済情勢については、「国民経済は引き続き回復し、全般的に回復上昇・好転している」としながらも、「現在、経済運営は新たな困難・試練に直面している」とし、それは主として、①国内需要が不足し、②一部の企業の経営が困難で、③重点分野の潜在リスクがかなり多く、④外部環境が複雑・峻厳だということであると指摘した。
下半期の経済政策については、「マクロ政策のコントロールを強化し、内需の拡大・自信の喚起・リスクの防止に力を入れ、経済運営の持続的好転・内生動力の持続的増強・社会の(将来)予想の持続的改善・潜在リスクの持続的解消を不断に推進し、経済の質の有効な向上と量の合理的な伸びの実現を推進しなければならない」とする。
財政政策は、減税・費用引下げ政策を継続・最適化・整備してしっかり実施し、金融政策は、科学技術イノベーション、実体経済、中小・零細企業の発展支援に力を入れると、基本的にこれまでの政策を踏襲しており、大型の景気対策を発動する気配はない。財政の持続可能性を考慮しているのであろう。
内需拡大では、まず消費については、個人所得の増加を通じて消費を拡大し、自動車・電子製品・家財等の大口消費、スポーツ・レジャー、文化・観光等のサービス消費に重点が置かれており、消費拡大政策も打ち出されている。投資については、インフラ投資の財源となる地方政府特別債の発行・使用を加速するとともに、民間投資が重視されており、民間投資促進政策が打ち出されている。
また、輸出・対中直接投資がマイナスとなっているため、その安定化が課題となっており、外資誘致政策が打ち出されている。
産業政策については、プラットフォーム企業が、イノベーション・雇用吸収・国際競争力向上に重要な役割を果たしているため、その規範的・健全で持続的な発展を推進するとしており、政府とプラットフォーム企業の座談会も開催されている。
改革方面では、民営企業の発展環境の最適化がうたわれており、民営経済の発展・壮大化促進支援政策が打ち出されている。また、国家発展・改革委員会、工業・情報化部、商務部が、民営企業・外資企業との座談会を精力的に開催し、意思疎通・交流を強化している。
重点分野のリスクの防止・解消方面では、「中国の不動産市場の需給関係に重大な変化が発生している新たな情勢に適応して、不動産政策を速やかに調整・最適化」するという、新しい表現が盛り込まれた。これに基づき、個人住宅ローンの1軒目の住宅の認定方法、頭金比率、金利の見直し、既存のローンの借り換えが進んでいる。住宅需要の重点は、個人のハードな住宅需要(農村から移り住んだ人々や大学卒業生の住宅需要)と改善関連の住宅需要である。
さらに社会保障的性格をもつ(低所得者向け)住宅の建設・供給を増やし、「都市の中の村」(都市の中で発展から取り残された地域)の改造と「平時・緊急時両用」の公共インフラ建設を積極的に推進し、各種遊休不動産を活性化・再開発するとしている。最近、「都市の中の村」の改造が、投資を活性化させ、家財(家具・家電等)の消費を促進する政策として注目されている。
不動産市場以外のリスクとしては、「地方の債務リスクを有効に防止・解消し、包括的な債務解消プランを制定・実施する」としており、今後の政策展開が注目される。また最近、地方の中小金融機関の乱脈経営による破綻事例が発生しているため、「金融の監督管理を強化し、ハイリスクの中小金融機関の改革・リスク解消を着実に推進する」としている。
民生の保障方面では、「雇用安定を戦略的高みに引き上げて全般的に考慮し、末端政府の『基本民生・給与・運営保障』の最低ラインをしっかり守り、中等所得層を拡大する」とする。現在、大学卒業生等の青年の失業率が20%を超えており、社会の安定にも影響を与えかねないため、雇用の安定が一層重視されている。
また、農村の絶対貧困脱却に続く政策として、農村振興の全面推進により、農民の貧困逆戻りを防ごうとしている。
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