拓殖大学大学院経済学研究科 田中 修
2022年12月15〜16日、党中央・国務院共催により中央経済工作会議が開催され、2023年の経済政策の基本方針が決定された。
経済情勢の見通しについては、回復の基礎はなお堅固ではないとしながらも、ゼロコロナ政策の実質転換、消費・生産の回復により、2023年の経済運営は総体として反転・上昇が見込まれるとする。
2023年の経済政策の基本方針としては、内需の拡大と供給サイドの質の向上を結びつけ、成長・雇用・物価を安定させ、経済運営全般の好転を推進し、質の有効な向上と量の合理的な成長を実現することとした。政策各論では、次の方針が決定された。
積極的財政政策は、必要な財政支出の強度を維持し、国債・地方政府特別債によるインフラ投資と、設備の更新・改造投資に対する財政の利子補給をうまく組み合わせて、質の高い発展を有効に支援するとともに、財政の持続可能性を維持し、地方政府の債務リスクをコントロールする。
穏健な金融政策は、流動性の合理的充足を維持し、金融機関が小型・零細企業、科学技術イノベーション、グリーン発展等の分野への支援を強化するよう誘導する。
産業政策は、伝統産業を改造・高度化し、戦略的新興産業を育成・発展させ、産業チェーンの脆弱部分を補強する。
科学技術政策は、科学技術の自立自強に的を絞り、教育・科学技術・人材政策を統合して、国家重大科学技術プロジェクトを実施し、新しいタイプの挙国体制を整備する
社会政策は、大学卒業生の雇用促進を重視し、物価上昇の困窮大衆への影響を緩和する。少子高齢化対策としては、出産支援政策を整備し、定年を段階的に延長する。
コロナ対策は、従来のゼロコロナ政策を実質的に見直し、高齢者と基礎疾患を患う人々に重点を絞る。
また、2023年の重大課題としては、次の5点を指摘している。
①内需拡大
消費の回復・拡大を優先して、個人所得を増やし、住宅改善・新エネルギー自動車・高齢者介護サービス等の消費を支援する。投資は、更に多くの民間資本を国家のプロジェクトに参加させる。
②現代化した産業システムの整備
重要エネルギー・鉱産資源の国内探索・開発と備蓄増加・生産向上を強化し、食糧生産能力を大きく向上させる。新エネルギー・AI・バイオ製造・グリーン低炭素・量子コンピューティング等の先端技術の研究開発と実用化・普及を加速する。デジタル経済を発展させる。
③民営企業の発展支援
民営経済と民営企業の発展・強大化を奨励・支援し、法に基づき民営企業の財産権と企業家の権益を保護する。
④外資の誘致・利用
外資企業に国民待遇を与え、外資企業が法に基づき、政府調達・入札・基準制定に平等に参加することを保証し、知的財産権と外資の合法権益の保護を強化する。
⑤重大な経済・金融リスクの防止・解消
不動産市場については、住宅引渡を保障し、不動産業の合理的な資金調達需要を満足させ、不動産業の再編・M&Aを推進し、優良トップ不動産企業のリスクを有効に防止・解消し、資産・負債状況を改善する。都市から移転した出稼ぎ農民とその家族や大学卒業生の住宅需要と、住み替え等の改善関連の住宅需要を支援する。金融リスクと地方政府の債務リスクを防止・解消する。
今回の会議では、市場化改革、対外開放、民営企業や外資企業の発展支援・権益保護といった、これまでの政策に変更がないことを強調している。これまで習近平指導部は、「資本の無秩序な拡張・野蛮な生長防止」を強調し、アリババなど民間大手プラットフォーム企業への取締りを強化してきた。
また、「共同富裕の推進」を表明して富裕層の脱税を摘発し、慈善事業への多額の寄付を促してきた。このため内外から、今後経済政策の左傾化が強まり、改革開放路線・市場経済化が停滞することが懸念されていた。今回の会議は、習近平指導部が第3期に入っても主要路線に変更がないことを、最高権力者である習近平総書記自身が、内外に向けてはっきり表明することが主目的であったと思われる。
ただ、党大会で新指導部が誕生すると、通常翌年秋に党3中全会が開催され、新指導部の経済政策の基本方針が決定される。
本年秋の3中全会において、改革開放政策の継続・深化のための具体的方針・政策が決定されるのか、あるいは全く異なるテーマが議論されるのか、引き続き注目したい。
|目次に戻る|