ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田中 修
コロナの散発とロシア・ウクライナ紛争の影響で、3・4月の中国経済は大きく落ち込んだ。4〜6月のGDP成長率は0.4%とかろうじてプラスを維持したものの、1〜6月でも成長率は2.5%にすぎず、年間目標の5.5%前後を達成することは難しくなった。
李克強総理は、7月21日の国務院常務会議で、「わが国経済は、安定・上昇に向かうカギとなる最適の時期にあり、7〜9月期が極めて重要である」とし、まずは雇用・物価安定の保障の目標実現を優先すべきとした。
7月28日、年後半の経済政策の基本方針を議論する党中央政治局会議が開催された。会議では、年間の経済目標達成は事実上放棄され、「最良の結果の実現に努力しなければならない」と大きくトーンダウンした。また、年後半の政策として、①動態的ゼロコロナ政策の堅持、②需要の拡大、③食糧・エネルギー・資源の安全保障と不動産市場の安定、④プラットフォーム経済の発展、⑤困窮大衆の基本生活保障と大学卒業生の雇用、⑥経済大省による経済の牽引、の6方針が決定された。
これを受け、7月29日の国務院常務会議は、需要拡大策を議論し、投資については、交通・エネルギー・物流・農業農村のインフラと5G・AI等の新しいタイプのインフラに重点を置き、7〜9月期にできるだけ多くの実物成果量を形成すること、消費については、新エネルギー自動車、農村から都市に移った新市民や住み替えの住宅需要、グリーン・スマート家電に重点を置くことが決定された。 また、8月16日には広東省・江蘇省・浙江省・山東省・河南省・四川省による経済大省政府主要責任者座談会が開催され、李克強総理は、これらの大省が、経済・市場主体(中小・零細企業、個人事業者)・財源・雇用・貿易の安定と需要拡大を支える役割を発揮するよう要請した。
このように、需要不足を補うため、マクロ政策の強化が要請される中、8月24日、5月に決定された経済を安定させる包括的政策に接続する19の追加政策措置が決定された。
会議はまず経済の現状について「現在、経済は6月の回復・発展の態勢を継続しているが、小幅な変動がみられ、回復の基礎は牢固ではない」とし、「適時果断に施策を行い、合理的な政策規模を維持し、道具箱の中で用いることができる道具をうまく用い、経済回復・発展の基礎を強固にしなければならない」とした。ただし、「バラマキを行わず、将来を先食いしてはならない」とも付け加えている。
施策は主として、次のものが含まれる。
①開発銀行・農業発展銀行・輸出入銀行によるプロジェクト資本金補充を、現行の3000億元に加え、さらに3000億元以上増やす。
②5000億元余りの地方政府特別債の残余枠をうまく用いて、10月末までに発行を終える。
③貸出プライムレートを利用して、企業の資金調達と個人消費者ローンのコストを引き下げる。
④条件が成熟したいくらかのインフラ等のプロジェクトの着工を認可する。
⑤民営企業の発展・投資を支援し、プラットフォーム経済の健全で持続的な発展を促進する。
⑥農村から都市に移った新市民や住み替えの住宅需要を合理的に支援する。
⑦いくらかの行政事業の料金徴収を1四半期猶予する。
⑧地方が中小・零細企業と個人工商事業者向け貸出リスク補償基金を設立することを奨励する。
⑨中央発電企業等が2000億元のエネルギー供給保障特別債を発行することを支援する。
⑩今年既に交付した300億元の農業資材補助金に加え、さらに100億元を交付する。
さらに李克強総理は9月28日、「経済大基盤安定10〜12月期政策推進会議」を開催し、次の施策を決定した。
①開発銀行・農業発展銀行・輸出入銀行による資本金補充により、資金使用とインフラプロジェクトの建設を加速し、10〜12月期に更に多くの実物成果量を形成する。
②特別再貸出・財政利息補助等の政策をうまく用い、製造業・サービス業・社会サービス等の分野の設備の更新・改造を加速する。
③来年の特別債の一部の限度額を前倒しで下達する。
④10〜12月期、最低生活保障のカバー範囲を一時拡大する。
⑤失業保障の範囲を拡大する政策を実施・整備する。
このように、5月の包括的政策、8月の接続政策、9月の10〜12月期政策と、切れ目なく経済の安定・回復・向上のための政策が打ち出されているのである。
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