ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田 中 修
中国共産党19期5中全会は、2020年10月29日、「第14次5ヵ年計画および2030年長期目標制定に関する党中央建議」(以下「建議」)を決定した。その注目点は、次のとおりである。
(1)目 標
第14次5ヵ年計画期間(以下「計画期間」)においては、質の高い発展の推進がテーマとなり、人民の日増しに増大する素晴らしい生活への需要を満足させることが根本目的とされた。具体的には、発展と安全を統一し、現代化された経済システムの建設を加速し、国内大循環を主体とし、国内・国際2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組の構築を加速し、経済運営の長期安定、社会の調和・安定を実現するとしている。
2035年については、1人当たりGDPが中等先進国水準に達し、中等所得層が顕著に拡大し、基本公共サービスは均等化を実現し、都市・農村、地域間の発展格差と国民生活水準の格差が顕著に縮小し、人民全体の共同富裕が更に顕著な実質的進展を得るとしている。
「建議」起草プロセスでは、2035年までの経済総量あるいは1人当たり所得の倍増目標を明確に提起すべきとの意見もあった。しかし習近平総書記は、今回は定量的表現を避けている。計画期間のテーマは「質の高い発展の推進」であり、ここで計画期間や2035年までの成長率にこだわるならば、21年以降のマクロ政策の議論が、過去の成長率至上主義に逆戻りしかねないからであろう。
(2)共同富裕の促進
中国は、2020年に農村貧困人口の脱貧困を達成したが、依然として多くの相対的貧困層を抱えており、都市・農村、地域間の発展と個人所得の格差はかなり大きい。
このため「建議」は、2035年までに共同富裕を顕著に実質進展させ、計画期間には共同富裕を着実に推進するとした。習近平総書記は、「このような記述は、党の全会文件では初めてである」と強調している。
(3)発展と安全の統一
これまでは、政策の考え方としては、「発展・改革・安定」のバランスが重視されてきた。たとえば2019年は安定が重視され、「6つの安定」(雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を安定させる)政策が強調されている。
しかし20年にはいり、新型コロナによる国内・国際経済の後退と、米中経済摩擦の激化・長期化により、指導部は新たに「安全」の要素を考慮せざるを得なくなった。新たに設けられた「6つの保障」(庶民の雇用、基本民生、市場主体、食糧・エネルギーの安全、産業チェーン・サプライチェーンの安定、末端の運営を保障)任務は、安全を強く意識している。
(4)2つの循環
新型コロナの影響で、グローバル産業チェーン・サプライチェーンが寸断され、国内市場を基盤としたチェーンの再構築が必要となっている。これに加え、米中経済摩擦の激化の中で、米国は国際大循環の中から中国企業・中国経済の切離しを図っているようにみえる。このような情況下では、国内市場・内需を重視するしかない。
ただ、この内需中心主義は、海外からは、中国が国際大循環から離脱し、対外開放政策を放棄して、過去の「自力更生」に回帰するものと受け取られかねない。このため、習近平総書記は、これは決して閉鎖的な国内循環ではなく、開放的な国内・国際2つの循環である、と強調している。
(5)国有企業改革
「建議」では、「国有資本と国有企業を強く、優れた、大きいものとする」と、久々に「国有企業の強大化」の表現が復活した。
しかし他方で、「法に基づき民営企業の財産権と企業家の権益を平等に保護し、民営企業の発展を制約する各種障壁を打破する」ともしており、国有企業と民営企業の表現のバランスを図っているようにもみえる。
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