ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田中 修
中国の4〜6月期GDP実質成長率は3・2%と、1〜3月期のマイナス6・8%からプラスに転じた。しかし、まだ経済は新型コロナからの回復過程にあり、1〜6月期でみると、▲1・6%とまだマイナスにとどまっている。
個別指標をみると、一時期前年同期比5・4%まで上昇した消費者物価は、6月は2・5%と落ち着いている。これは生産・物流が回復したことと、上昇の主因であった豚肉価格の高騰が落ち着いてきたことが原因である。ただ、今後洪水の影響で生鮮野菜価格が上昇するおそれがある。
工業生産は、6月は前年同期比4・8%増と、かなり平常ベースに近づいてきた。特にSUV車を中心に自動車生産が回復しており、これが全体水準を押し上げている。消費(小売)は、レストラン・旅館等の不振により、6月も同マイナス1・8%とマイナス傾向を脱していないが、在宅消費の普及により、Eコマースの実物商品販売が1〜6月で14・3%と伸びており、全体の25・2%を占めるに至っている。投資は、1〜6月では同マイナス3・1%とまだマイナスであるが、プロジェクトの大幅前倒しにより新規着工が13・5%増となっており、不動産開発投資も1・9%増とプラスに転じているので、現在急回復の途中と考えられる。
対外貿易では、6月は輸出・輸入とも、マイナスからプラスに転じた。特にアセアン向けがプラスとなっている。
この情況を受け7月30日に、年後半の経済政策の方針を決める党中央政治局会議が開催された。
まず経済の情勢判断については、「経済は着実に回復し、業務・生産の再開は月ごとに好転し、4〜6月期の経済成長は明らかに予想よりも良い」としながらも、「当面の経済情勢は依然として複雑・峻厳であり、不安定性・不確定性がかなり大きく、我々が遭遇している多くの問題は中長期的なものである。持久戦の観点から認識し、国内の大循環を主体とし、国内・国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展の枠組みを早急に形成しなければならない」としている。世界経済の低迷が来年も続くと予想されるなか、内需拡大による経済成長の維持に軸足を移した形となっている。
マクロ政策は、「実施で実効を上げることを確保しなければならない」とされ、財政政策は「更に積極的に成果を出し、実効を重視しなければならない。重大プロジェクトの建設資金を保証し、質・効率を重視しなければならない」、金融政策は、「更に柔軟・適度にし、正確に導かなければならない。マネーサプライと社会資金調達規模の合理的伸びを維持し、総合資金調達コストの顕著な低下を推進しなければならない。新規融資の重点を製造業、中小・零細企業に向けなければならない」とされた。また、最終消費と有効な投資の積極的拡大が強調されており、5月の全人代で決まったマクロ政策の基本方向が、年後半も当面引き継がれる形となっている。
個別政策については、①医療・衛生物資の備蓄と疫病防御国際協力の強化、②新しいタイプのインフラ建設・重大地域の発展戦略・国家重大戦略プロジェクトの推進、③新しいタイプの都市化による投資・消費需要の牽引、④産業チェーン・サプライチェーンの安定性と競争力の向上、⑤農業の基礎的地位の強化、⑥改革深化の方法を用いたビジネス環境の最適化と開放の拡大、⑦資本市場と不動産市場の平穏で健全な発展の促進、⑧困窮大衆の基本生活の保障・若者の雇用に対する疫病の影響の緩和・出稼ぎ農民への就業サービスの強化、⑨現行基準下での農村貧困人口の全部脱貧困と貧困県の全部解消、⑩長江・黄河の生態保護推進、⑪安全生産の強化、⑫水害防止・災害救助と災害後の復興・再建、などが掲げられている。
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