ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田中 修
1月20日以降新型コロナウイルスによる肺炎(以下「新型肺炎」)が急拡大し、党中央・政府は対応に追われているが、マクロ政策は次第に大型景気対策へと向かっている。
当初は、防護服・マスク・ゴーグル・関連薬品等を生産する企業の業務・生産再開のための税制・金融支援、生活必需品の供給保障が重点とされ、2月5日の国務院常務会議で具体的支援策が決定された。
他方2月3日の党中央政治局常務委員会会議は、「新型肺炎が経済運営にもたらす衝撃・影響に焦点を絞り、『雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想』を安定させる政策を軸に、各種の複雑・困難な局面への対応をしっかり準備しなければならない」とし、マクロ経済の安定が政策の大きな柱となった。
これを受け、人民銀行は2月3・4日の2日間で、公開市場操作により計1・7兆元の流動性を放出し、財政部は11日、地方政府の新規債務増の限度額を1兆8480億元とした。
続く12日、党中央政治局常務委員会会議は、「マクロ政策の調節を強化し、疫病がもたらした影響について、相応の政策措置を検討しなければならない」とした。これを受け、18日の国務院常務会議は、企業の年金・失業・労災保険の保険料減免、出稼ぎ農民の職場復帰支援、大学卒業生の採用延期、失業者への失業補助金支給等を決定し、人民銀行は20日、貸出プライムレートを引き下げた。
さらに2月23日、新型肺炎対策と経済社会発展政策を統一的に推進する会議が開催され、マクロ政策は「経済運営が合理的区間から滑り落ちることを防止し、短期的な衝撃が趨勢的な変化に転換することを防止しなければならない」とし、次の点が決定された。
これを受け、財政部は3月3日、社会保険料の企業負担を年間1兆元超軽減するとし、人民銀行は2月26日、再貸出等を3000億元から8000億元に増額し、「三農」支援と小型・零細企業向け再貸出の金利引下げを決定した。さらに3月16日、中小・零細企業に狙いを定めた預金準備率引下げを実施し、長期資金5500億元を解放した。
3月27日の党中央政治局会議は、「(新型肺炎の衝撃に)積極的に対応する包括的マクロ政策を早急に検討し、打ち出されなければならない」とし、次の内容を含む大型景気対策を要求した。
積極的財政政策は、財政赤字の対GDP比率を適切に引上げ。特別国債の発行。特別地方債の増額。各減税・費用引下げ政策の実施。特別地方債の発行・使用を加速。重点プロジェクトの準備と建設を加速。
穏健な金融政策は、市場の貸出金利を引下げ。流動性の合理的な充足を維持。貸出元利償還・利払いを延期。資金調達難・資金調達コスト高を緩和。
これを受け、31日の国務院常務会議は、人民銀行再貸出等をさらに1兆元増額し、中小・零細企業向けの金融支援を強化するとした。また、人民銀行は4月3日、中小・零細企業に狙いを定めた預金準備率引下げを4月・5月に実施し、長期資金約4000億元を解放することを決定している。
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