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チャイナ・レポート(Web版)

当面の経済政策(2019年11月1日号掲載)

ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田中 修

 対外経済における米中経済摩擦の泥沼化、国内における指標の悪化により、中国では経済の下振れ圧力が一層増大している。
このような中、習近平総書記は7月30日、党中央政治局会議を開催し、下半期の経済政策を決定した。
 会議は、「下半期の経済政策の意義は重大である」とし、安定成長、改革促進、構造調整、民生優遇、リスク防止、安定維持のための各政策を統一的に企画し、「雇用、金融、対外貿易、外資、投資、予想の安定化」政策を全面的に実施することにより、経済の持続的で健全な発展を促進しなければならないとした。
 積極的財政政策については、「力を加え効率を高め、減税と費用引下げ政策を引き続き詳細に実施しなければならない」とした。李克強総理は9月4日、国務院常務会議を開催し、次年度分の特別地方債の前倒し発行を認めるとともに、その使用範囲を拡大し、鉄道、軌道交通、都市駐車場等の交通インフラ、都市・農村電力網、天然ガスパイプライン、ガス備蓄施設等のエネルギープロジェクト、農林業水利、都市汚水・ゴミ処理等の生態環境保護プロジェクト、職業教育、幼児保育、医療、年金等の民生サービス、コールドチェーン物流施設、水道・電気・ガス・暖房供給等の地方公益事業、産業パークのインフラ、に重点的に用いることとした。
 穏健な金融政策については、「緩和と引締めを適度にし、流動性の合理的な充足を維持しなければならない」とし、「金融のサプライサイド構造改革を推進し、金融機関が製造業や民営企業への中長期融資を増やすよう誘導し、リスク処理のテンポと程度をしっかり把握し、金融機関、地方政府、金融監督管理部門の責任を徹底させる」としている。
 人民銀行が8月2日に開催した「下半期政策テレビ会議」では、小型・零細企業への貸出件数の増加・貸出の拡大・貸出コストの適度な引下げの実現を確保するとともに、金利の市場化改革を引き続き深化させ、企業の資金調達実質コストの低下を有効に促進することが決定された。
 これに基づき、人民銀行は貸出金利の市場化改革の一環として、8月20日から新しい最優遇貸出金利制度を導入し、実質貸出金利を引き下げた。また9月16日には、金融機関の預金準備率を0・5ポイント引き下げ、さらに9月20日には、再び実質貸出金利を引き下げた。
 雇用優先政策については、「大学卒業生、出稼ぎ農民、退役軍人等の重点層の雇用対策をしっかり行う」としている。李克強総理は、8月19日の「一部省雇用安定政策座談会」で、労働集約型企業と暫時経営が困難となっている企業が、難関を乗り越えられるよう支援するとともに、失業保険基金の残高から抽出した1000億元資金をうまく用いて、従業員の技能向上と転職・転業訓練を実施し、高等職業訓練校と全国2000ヵ所余りの技術労働者養成学校の募集を拡大するとした。
 さらに注目すべきは、「『住宅は住むためのものであり、投機のためのものではない』という位置づけを堅持し、不動産の長期に有効な管理メカニズムを実施し、不動産を短期的経済刺激の手段としては用いない」と、不動産頼みの景気浮揚策を明確に否定していることである。
 不動産市場の活性化は、鋼材、セメント、アルミ、板ガラス等の工業生産、建築及び内装、家具、家電及び音響製品等の消費、並びに不動産開発投資の拡大をもたらすため、しばしば景気浮揚策として利用され、多少の過熱は黙認されてきた。しかし、住宅価格の高騰は、家計部門の住宅ローン負債を増加させ、債務リスクの増大と消費の抑制をもたらすため、今回は不動産市場の長期に健全な発展が優先されることになったのである。


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