ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田中 修
3月5日、全人代が開催され、李克強総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。今回は経済減速と、米中経済交渉のさなかでの報告となった。報告のうち、2019年の景気対策関連部分の主要なポイントは、以下のとおりである。
1.経済政策の基本方針
「2019年、中国の発展が直面する環境はより複雑、より峻厳であり、予想できるリスク・試練と予想し難いリスク・試練が、より多く、より大きくなっている」とし、雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想の安定を経済政策の基本方針とすることを要求する。
マクロ経済政策については、「積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施し、雇用優先政策を実施し、経済運営を合理的区間に確保し、経済社会の持続的で健全な発展を促進しなければならない」とし、マクロ経済政策に財政政策・金融政策と並ぶ項目として、「雇用優先政策」が新たに加わった。
2.2019年の経済目標
経済成長は、2018年の「6・5%前後」から、「6%~6・5%」と、下方修正された。この理由については、①経済運営における不安定・不確定要因を十分推し量っており、②市場の予想安定に資するもので、③現在の中国の経済成長の潜在力に合致している、と説明されている。
雇用は、都市新規就業増は「1100万人以上」と、18年と同じ目標が示された。しかし、報告は、ここ数年の実績(18年は1361万人)を確保せよとしており、目標は実質かさ上げされている。都市調査失業率は「5・5%前後」と、18年と同水準となっている。
消費者物価上昇率は、「3%前後」と、18年と同水準であった。
3.積極的財政政策
積極的財政策については、「力を強め効果を高めなければならない」とされ、2019年度の財政赤字の対GDP比率は2・8%とされ、2018年度の2・6%より0・2ポイント高められた。
増値税などの減税、社会保険料などの費用引下げの規模は、2018年度の1・3兆元から2兆元へと、大幅に拡大した。
2019年度は、特別地方債を2・15兆元計上(前年度比8000億元増)し、重点プロジェクト建設のために資金を提供するとともに、特別地方債の使用範囲を合理的に拡大するとしており、インフラ投資の財源として、特別地方債の役割が重視されている。
4.穏健な金融政策
「穏健な金融政策は、緩和と引締めを適度にしなければならない」とし、金融政策の表現から「(景気)中立性維持」が落とされた。
また、中小・零細企業の資金調達難・資金調達コスト高の問題を緩和するため、中小銀行への方向を定めた預金準備率引下げを強化し、解放された資金を全部民営、小型・零細企業への貸出に用いるとともに、2019年は、国有大型商業銀行の小型・零細企業向け貸出を、30%以上増やさなければならない。
5.雇用優先政策
雇用の重点対象が、これまでの大学新卒者・出稼ぎ農民に加え、新たに退役軍人と一時帰休者が加わった。
具体的には、農村貧困者・都市の半年以上の失業者を雇った各種企業に対し、3年以内で定額税・費用の減免を行う。失業保険基金から1000億元を抽出し、延べ1500万人以上の従業員の技能向上・転職転業訓練に用いる。また、高等職業学校の入学募集定員を100万人増やし、より多くの高校卒業生・退役軍人・一時帰休者・出稼ぎ農民等を吸収する。
6.内需拡大
消費については、個人所得税減税により、約8000万人の納税者に恩恵を与える。また、新エネルギー自動車購入の優遇政策を引き続き執行する。
投資は、鉄道投資8000億元、道路・水運投資1・8兆元を完成する。このほか、重大水利プロジェクト、都市間交通、物流、地方都市インフラ、災害防止、民間・一般航空等のインフラ、新世代情報インフラの建設を強化する。
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