ジェトロ・アジア経済研究所 上席主任調査研究員 田 中 修
2018年12月19〜21日に、党中央・国務院により、19年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議(以下「会議」)が開催された。以下は会議の概要である。
1.経済情勢認識
経済運営に下振れ圧力があることを認めながらも、危機をチャンス・安全に変え、プレッシャーを経済の質の高い発展の推進動力に変えることができれば、なお重要な戦略的チャンスの時期にあるという認識を維持した。ただそのためには、経済構造調整と改革・開放の深化が必要であるとしている。
2.2019年の経済政策の基本方針
①安定の中で前進を求めるという政策の総基調、②新発展理念、③質の高い発展の推進、④サプライサイド構造改革を主線、⑤市場化改革の深化・ハイレベルの開放拡大の堅持(5つの堅持)、雇用・金融・対外貿易・外資・投資・予想を一層安定(6つの安定)させることが、キーワードとされた。
今後の政策としては、次の4点が強調された。
3.マクロ政策
景気変動と逆方向への調節を強化し、適時事前調整と微調整を行い、総需要を安定させなければならない。
(1)積極的財政政策
2018年よりも大規模な減税と費用引下げを行い、収益性のある地方インフラ投資を増やすことにより、投資の下支えを図る。
(2)穏健な金融政策
金融政策から景気「中立性」が削除され、流動性については、「合理的な充足の維持」と、より表現が緩和方向に修正された。ただ全面的緩和ではなく、流動性は主として民営企業、小型・零細企業に向けられている。
(3)構造政策
国有企業、財政・金融、土地、市場参入、社会管理等の分野の改革を深化させる。
(4)社会政策
19年は新中国成立70周年という政治的イベントの年であるため、社会の大局的安定の維持が重視されている。
4.サプライサイド構造改革
4つの面での努力が強調された。
①より多くの生産能力過剰業種の清算処理を加速し、全社会の各種ビジネスコストを引き下げ、インフラ等の分野の脆弱部分を補強する。
②企業・企業家のミクロ主体の活力を増強する。
③新たな産業集積群を育成・発展させる。
④国内市場と生産主体、経済成長と雇用拡大、金融と実体経済の良性の循環を形成する
対外環境が厳しさを増す中で、内需主導による効率・質の高い成長が重視されている。
なお、構造的脱レバレッジについては、19年は「適度」なものとするよう、表現を緩和している。
5.製造業の質の高い発展の推進
製造業の質の高い発展のため、「ゾンビ企業」の処理を加速する。また、国家主導による上からのイノベーションのみならず、中小企業による下からのイノベーションも重視されている。
6.強大な国内市場の形成促進
(1)消費
個人所得税については、2018年10月に課税最低限の引上げと低税率の所得層の拡大が前倒し施行されたが、19年は特別控除の拡大により可処分所得を増やすとともに、製品の質の向上、教育、保育、養老、医療、文化、観光等のサービス業の発展加速と安心・安全の確保により、消費の刺激を図っている。
(2)投資
投資は18年よりも強化される可能性があるが、その対象は、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)、工業インターネット、IoT(モノのインターネット)等、第4次産業革命を強く意識したものとなっている。
7.経済体制改革の加速
ミクロ主体の活力増強を重点とすることとされた。
①国有企業改革
政府と企業の分離を進め、「国有資本」を強大化する。国有企業の管理から国有資本の管理へ転換する。
②民営企業の発展支援
法治化した制度環境を作り上げ、民営企業家の人身の安全と財産の安全を保護する。
③金融体制改革
民営企業、小型・零細企業と「三農」への融資業務を強化する。
④財政・税制改革
地方政府の債務管理が重要な課題とされている。
⑤政府機能の転換
「およそ市場が自主的に調節できるものは市場により調節させ、およそ企業ができる事は企業にやらせなければならない」と、市場化改革の方向を改めて強調した。
|目次に戻る|