奈良県立大学特任教授 特別研究員 田中 修
4〜6月期のGDPは、実質6·7%の成長となった。四半期別の成長率は2017年7〜9月期から2018年1〜3月期まで7·8%であったため、久しぶりの成長減速となる。
各指標を見てみると、都市固定資産投資の伸びは1〜3月の7·5%から、1〜6月は6·0%に鈍化しているが、これはこれまで投資を支えてきた、インフラ投資の伸びが鈍化しているためである。
現在、中国は2020年までの重点政策として、①重要なリスクの防止と解消、②農村の脱貧困、③環境対策の3大堅塁攻略戦で勝利を得るとしている。特に重視されているのが重要リスクの防止と解消であり、その中心は金融リスクである。
金融リスクは、主として政府部門(とりわけ地方政府)と企業部門(とりわけ国有企業)の債務比率の高さが問題とされ、その引下げ(脱レバレッジ)が大きな課題である。このため、政府の債務比率をこれ以上高めないため、財政部は財政赤字の規模を前年度と同額に抑えることで、2018年度の財政赤字の対GDP比率を、3%から2·6%に引き下げることを決定した。このため中央政府の建設国債と地方政府の新規地方債の発行額を抑えなければならず、インフラ投資にブレーキがかけられたのである。
不動産投資は、相変わらず高い伸びを維持しているが、これは住宅市場の過熱がおさまらないためである。一線都市と一部の二線都市では、16年後半から17年にかけて厳しい住宅購入制限政策が採用され、現在価格は高止まり状態となっている。しかし、規制を嫌った資金が残りの二線都市と三線都市に流れ込んだため、住宅価格の上昇が全国に拡大した。
6月の全国70大中都市の新築分譲住宅価格は、前月比で63都市が上昇しており、横ばいは3都市、下落は4都市に過ぎない。都市の規模別でも一線都市が0·6%上昇、二線都市が1·2%上昇、三線都市が0·7%上昇と、全てのレベルの都市の住宅価格が上昇傾向を示している。この住宅価格の上昇が不動産開発投資を支えているのである。
消費の鈍化の兆しは、これまで2ケタの伸びであった消費財小売額の伸びが、昨年12月以降1ケタに落ち込んでおり、6月も9·0%となっている。
その原因の1つは、地方都市の住宅価格上昇に伴う、住宅ローン債務の増大であろう。債務負担が増大すれば、消費に回す資金の余裕はなくなる。
また、都市部の所得の伸びの鈍化も、消費に影響しているのではないか。
1〜6月期の都市住民1人当たり平均可処分所得は実質5·8%増であり、都市の所得の伸びは成長率を大きく割り込んでいる。これは、消費支出にも影響しており、1〜6月期の都市住民1人当たり消費支出は実質4·7%増であった。この都市の消費支出の落ち込みが、小売総額の伸びの鈍化に反映されていると考えられる。
外需については、輸入の伸びが輸出の伸びを大きく上回る状態が依然続いており、1〜6月期の成長率6·8%への外需の寄与率はマイナス9·9%であった。加えて、米中貿易摩擦が激化すれば、外需のマイナス効果がさらに拡大する可能性もある。
調査失業率は改善傾向を示している。1〜6月期の新規就業者増は752万人と、年間目標「1100万人以上」を前倒しで達成する勢いであり、雇用情勢は引き続き安定している。
経済の減速を受け、李克強総理は7月23日の国務院常務会議で、財政政策をより積極的に運営し、金融政策については従来の「景気中立」の表現を削除し、投資の安定的伸びを確保することとした。7月31日に開催された党中央政治局会議では、後半のマクロ経済政策について、雇用·金融·対外貿易·外資·投資·予想を安定させ、改革開放を推進し、住宅価格の上昇に歯止めをかける方針が打ち出された。米中貿易摩擦激化の中で、中国経済は大きな節目を迎えている。
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