日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修
中国経済は、成長率・雇用は安定しているものの、個別指標は一進一退であり、特に外需のマイナス効果、住宅市場回復の頭打ち、民間投資の減退、個人所得の伸びの鈍化といった、気になる材料が見受けられる。このようななかで必要とされるのは、安易な需要刺激策ではなく、成長分野の規制緩和による民間投資の呼び込み、所得分配改革による個人所得の伸びの拡大、過剰生産能力業種の大胆な再編といった構造改革・構造調整である。
1.第3次産業・消費の貢献が大きい最近の経済成長(GDP成長率)
2016年1〜6月期のGDPは34兆637億元であり、前年同期比で実質6・7%の成長となった。これを四半期別にみると、1〜3月期は6・7%、4〜6月期は6・7%と横ばいである。しかし、前期比では1〜3月期1・2%(年率換算約4・8%)、4〜6月期1・8%(同約7・2%)であり、4〜6月期の方が上向いている。
産業別の付加価値のウエイトでは、3次産業が54・1%、2次産業は39・4%、1次産業は6・5%である。また、成長率への貢献度でみると、消費は73・4%、投資は37%、純輸出(輸出から輸入を差し引いたもの)はマイナス10・4%である。このように、最近の成長は第3次産業・消費の貢献が大きい。
2.消費・雇用は堅調だが貿易黒字は縮小のおそれ(個別指標)
(1)消費
1〜6月期は前年同期比10・3%増と比較的安定している。特に、全国インターネット商品・サービス小売額が同28・2%増と、依然高い伸びを示している。ただ、全国住民1人当りの可処分所得が実質6・5%増と成長率より低くなっており、この傾向が続くと、消費に悪影響が出る可能性もある。
(2)投資
1〜6月期の都市固定資産投資は、前年同期比9%増であった。
インフラ投資(電力以外)は同20・9%増と高い伸びを示し、不動産開発投資も同6・1%増と持ち直しているが、他方で民間固定資産投資が、過剰生産能力業種・鉱業を中心に同2・8%増と大きく落ち込んでいる。このため、投資の十分な回復につながっていない。
(3)外需
1〜6月期の輸出は前年同期比マイナス7・7%、輸入は同マイナス10・2%となった。輸出のマイナス幅が拡大し、輸入は逆に縮小している。これは原油価格をはじめとする一次産品価格の下落傾向にやや歯止めがかかったことが一因と思われるが、このことが、成長率に対する外需の寄与率を大きくマイナスにしているのである。
(4)雇用
1〜6月期の新規就業者増は717万人で、年間目標1000万人以上を達成する勢いであり、6月末の都市登録失業も4・05%と、目標4・5%以内をクリアしている。
3.下半期の経済政策を決定
党中央政治局会議(7月26日)では、上半期の経済の評価としては、「経済運営は総体として平穏である」としながらも、「経済の下振れ圧力は依然かなり大きく、高度に重視すべきリスクの隠れた弊害が存在する」と指摘している。
下半期の経済政策の重点は、次のように決定された。
(1)総需要を適度に拡大し、積極的財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施する。
(2)各減税・費用引き下げ措置を実施し、民間資金を誘導してより多く実体経済とインフラ建設の脆弱分野に振り向ける。
(3)マネー・貸出と社会資金調達の合理的な伸びを誘導し、実体経済の発展を支援する。
(4)金融リスクの隠れた弊害を有効に防止・解消し、人民元レートの安定を維持する。
(5)財政・税制、金融、イノベーション、国有企業等の重点分野の改革を深化させる。
(6)サプライサイド構造改革の5大重点任務を全面的に実施する。①過剰生産能力削減と②脱レバレッジについては、国有企業と金融部門の改革を深化させ、③住宅在庫削減と④脆弱部分の補強については、都市化プロセスと出稼ぎ農民の市民化を結びつけ、⑤企業コスト引き下げについては、労働市場の柔軟性を高め、資産バブルを抑制し、マクロの税負担を引き下げる。
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