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チャイナ・レポート(Web版)

改革の再始動(2016年7月1日号掲載)

日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修

 最近、日本のマスコミでしばしば中国指導部内の不協和音が報道された。その主な内容は、経済の減速の中で、改革をどこまで進めるかにあったように思われるが、最終的には習近平総書記が開催した2つの小組会議で収束された。

1.発展の強調

 昨年10月に開催された、党5中全会は、第13次5ヵ年計画に関する党中央建議を採択した。
 この会議において、経済の「新常態」に適応するため、①イノベーション、②協調、③グリーン、④開放、⑤成果を共に享受、の「5大発展理念」が示された。
 これ自体は高く評価されるが、私が疑問に思ったのは④であり、なぜ「改革・開放」による発展ではないのか、という点である。この建議ではもっぱら発展が語られ、改革の項目は「イノベーションによる発展」の中で小項目として紹介されているにすぎなかった
 しかも2013年の党3中全会では、改革の重要項目について2020年までに「決定的成果」を挙げなければならないとされている。この5ヵ年計画には、「改革の全面深化」の施策も盛り込まれなければならないはずであった。

 

2.2つの「サプライサイド構造改革」

 改革の議論を補完するためか、昨年11月に習近平総書記は「サプライサイド構造改革」を提起し、12月の中央経済工作会議で、①過剰生産能力の削減、②不動産在庫の削減、③脱レバレッジ、④企業のコスト引き下げ、⑤有効な供給の拡大、の5大任務が決定された。
 しかし、このうち①・②・③は、2009〜10年に発動された大型景気刺激策の後遺症の後始末であり、目新しいものではない。しかも、サプライサイド構造改革の主目的は、全要素生産性を高め、潜在成長率を引き上げることにあるので、本来であれば、規制緩和・イノベーションも必要となる。
 また、サプライサイド構造改革と、「改革の全面深化」との関係がはっきりしなかった。過剰生産能力の大半は国有企業が抱えているので、その解消は国有企業改革・民間活力の導入と一体で行うべきであるが、中央経済工作会議の表現では、まずは過剰生産能力削減を最優先し、国有企業改革を先送りするようにも読めたのである。
 ところが、李克強総理が3月の「政府活動報告」で示したサプライサイド構造改革は、①規制緩和、②イノベーションの推進、③過剰生産能力解消と企業のコスト削減、④財・サービスの供給改善、⑤国有企業改革の推進、⑥民間活力の導入、の6項目であった。  
 政府活動報告と中央経済工作会議の内容に珍しく齟齬が生じたのである。

 

3.議論の収束

 この指導部内の不協和音は、最終的に習近平総書記が開催した2つの小組会議で収束された。

(1)中央財経領導小組会議(5月16日)
 この会議では、サプライサイド構造改革の「本質的属性」は改革の深化であるとされ、「国有企業改革の推進、政府機能の転換の加速、価格・財政・税制・金融・社会保障等の分野の基礎的改革の深化」が列挙された。この直後、李克強総理は5月18日の国務院常務会議で、国有中央企業の改革を打ち出している。他方、5大任務が「当面の重点」ともされており、2つのサプライサイド構造改革の内容の調和が配慮されている。

(2)中央改革全面深化領導小組会議(5月20日)
 この会議では、「サプライサイド構造改革を推進することは、改革を全面深化する決意への重要な検証である」とし、「国有企業、財政・税制・金融、価格制度、農業・農村、対外開放、社会保障、生態文明等の分野の基礎的改革を加速し、カギとなる改革措置を早急に打ち出さなければならない」とし、他方で5大任務の個別案を制定し、項目ごとに実施にしっかり取り組まなければならないとした。
 このように、サプライサイド構造改革の推進と改革の全面深化のバランス・融合が図られたことは大変結構なことであり、今後の改革の進展を期待したい。

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