日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修
3月5日、全人代が開催され、李克強総理が政府活動報告(以下「報告」)を行った。第13次5ヵ年計画の平均成長率をめぐっては、6.5%〜7.0%の間で論争があったが、結局、構造改革・構造調整派の主張する6.5%以上に落ち着いた。2016年を6.5%〜7.0%としたのは、高めの成長目標を設定して構造改革・構造調整を遅らせようとする反対派との妥協の産物という面があろう。以下、2016年のマクロ経済政策関連の主要なポイントについて触れる。
1.マクロ経済の目標
マクロ経済の主要予期目標は以下のとおりである。
(1)GDP成長率目標:6.5%〜7.0%(2015年は7%前後、実績6.9%)
成長目標を引き下げた理由として、報告は「小康社会の全面的実現という目標とリンクさせること及び構造改革推進の必要性を考慮したものであり、市場の予想の安定・誘導に資するものである。安定成長は主として雇用の確保・民生優遇のためであり、6.5%〜7.0%の成長率は、比較的十分な雇用を実現できる」と説明している。
国家発展・改革委員会の経済報告ではさらに踏み込み、主として次の3点を考慮したとする。
①後年度の負担軽減
第13次5ヵ年計画期間は経済の平均成長率を6.5%以上にする必要があり、もし今年の成長率が6.5%より低ければ、あと数年成長率を高める必要がある。後年度圧力を避けるため、今年の予期目標を6.5%〜7.0%に設定した。
②雇用の安定
6.5%〜7.0%の経済成長は、1,000万人以上の都市新規雇用増をもたらすことができる。
③市場の予想を安定化
6.5%〜7.0%の成長予期目標は、受容可能な経済成長の弾力性の範囲を拡大し、わが国の経済成長の潜在力と市場の予想を符合させ、自信を奮い立たせる。
(2)消費者物価上昇率:3%前後(2015年は3%前後)
(3)都市新規雇用増:1,000万人以上(2015年は1,000万人以上)
(4)都市登録失業率:4.5%以内(2015年は4.4%以内)
経済報告は、この2つの雇用目標につき、「過剰生産能力を解消し、企業の合併再編を推進し、隠れた失業の顕在化に対応するため、一定の余地を残している」と説明している。
2.マクロ経済政策
(1)積極的財政政策:力を加えなければならない
2016年の財政赤字は2.18兆元を計上(前年度比5,600億元増)し、うち中央財政赤字は1.4兆元(同2,800億元増)、地方財政赤字を7,800億元(同2,800億元増)としている。財政赤字の対GDP比率は昨年度2.4%から3.0%に拡大した。報告は「わが国の財政赤字率と政府負債率は、主要経済体のなかで相対的にかなり低く、このような計上は必要であり、可能であり、安全である」とする。
拡大した財政赤字については、主として減税と費用引下げに用い、5月1日から、営業税の増値税への転換を全面実施する。具体的には、テスト範囲を建築業・不動産業・金融業・生活サービス業に拡大し、新たに増えた不動産を仕入れ税額控除に組み入れ、全ての業種の税負担を減らす。このほか費用引下げにより、2016年度の企業・個人負担は、5,000億元余り軽減されることになる。
同時に、中央基本建設支出を5,000億元計上し、重大な基本建設プロジェクトに集中的に用いる。また、生産能力削減プロセスで発生する人員の再就職支援として、2016年度と2017年度にそれぞれ特別奨励資金を500億元計上している。
(2)穏健な金融政策:柔軟・適度でなければならない
2016年のM2※の伸びは13%前後(2015年目標は12%前後)とし、社会資金調達規模残高の伸びは13%前後とする。
また、「公開市場操作・金利・預金準備率・再貸付等の金融政策手段を統一的に企画・運用し、流動性の合理的充足を維持し、伝達メカニズムを円滑にし、資金調達コストを引き下げ、実体経済、とりわけ小型・零細企業、『三農』等への支援を強化する」としている。
※M2とは、現金通貨と国内銀行等に預けられた預金を合計したもの。
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