日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修
習近平総書記は、昨年11月10日の党中央財経領導小組会議において、「総需要を適度に拡大すると同時に、サプライサイドの構造改革強化に力を入れ、供給体系の質・効率向上に力を入れ、経済の持続的な成長動力を増強し、わが国の社会生産力水準の全面的な飛躍実現を推進しなければならない」とした。
この後、エコノミストの間で「サプライサイド構造改革」が流行語となっていたが、12月18〜21日に開催された中央経済工作会議(以下「会議」)は、改革の内容を“5大任務”に整理して精緻化した。
まず、「会議」はサプライサイド構造改革推進の意義を次のように説く。
①経済発展の新常態に適応しこれをリードするための重大な刷新である。
②国際金融危機発生後の総合国力競争の新情勢に適応するための主動的な選択である。
③わが国経済発展の新常態に適応するための必然的な要求である。
その目的は、「要素配分の歪みを矯正して、有効な供給を拡大し、供給構造の適応性・柔軟性を高め、全要素生産性を高める」ことにあり、「主として生産能力削減・在庫削減・脱レバレッジ・コスト引下げ・不足補充の“5大任務”にしっかり取り組まなければならない」としている。
もともとサプライサイドを重視する考え方は、米国のレーガン政権時代に打ち出された。経済の潜在成長率を決めるのは、需要側ではなく供給側(労働力・資本・生産性)であり、供給側が不十分なときに、ケインズ政策を発動していくら需要を刺激しても、インフレ・資産バブルを生み出すだけとなる。これは、中国がリーマンショック時に発動した、4兆元規模の景気刺激策の結果をみても明らかである。
中国はすでに高度成長を終え、中成長へと移行している。これが一気に低成長へと落ち込まないためには、一定の需要を確保しつつサプライサイドを強化して、潜在成長率を維持しなければならない。具体的には、消費需要の多様化・高度化に見合った有効な供給を増やすとともに、経済リスクを解消し、生産性を高めることである。
“5大任務”の具体的内容は、以下のとおりである。
(1)過剰な生産能力の解消
法に基づき、破産・清算案件の審理を加速して、いわゆる「ゾンビ企業」を市場から退出させる方針を明らかにした。ただ、国有企業の破産の増加は、失業者を増大させ、社会を不安定化させるおそれもある。このため、「できる限り多く合併再編を行い、破産・清算を少なくし、従業員の雇用をしっかり安定させなければならない」としている。
(2)企業のコスト引下げ支援
①行政面の制度的な取引コスト、②企業の税費用負担、③社会保険料、④企業の財務コスト、⑤電力価格、⑥物流コストの、6分野での企業コスト引下げ政策を打ち出している。
(3)不動産在庫の解消
戸籍制度改革を実施し、出稼ぎ農民を就業地で都市戸籍に転換することにより、彼らに就業地で住宅を購入・賃貸させ、新たな住宅需要を生み出す。住宅賃貸市場と住宅賃貸専門の企業を発展させるとともに、不動産業の合併再編を促進する。
(4)有効な供給の拡大
①脱貧困、②企業の技術改造・設備更新支援、③新産業の育成・発展、④インフラ不足の補充、⑤人への投資の強化、⑥食糧の安全保障、の各政策を打ち出している。
(5)金融リスクの防止
デフォルトに対しては、法に基づき処置する。地方政府の債務については借換えを進め、全面的な政府債務管理と地方債発行制度を整備する。違法な資金調達を防止し、リスク案件を適切に処理し、制度的・地域的なリスクを発生させない最低ラインをしっかり守る。
今後この具体策が、3月に開かれる全人代の『政府活動報告』及び『第13次5ヵ年計画要綱』に盛り込まれることになろう。
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