日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修
先日の株価の下落から、景気の悪化が始まったと不安視される中国経済だが、今号ではまず、1〜6月期の各主要経済指標の動向をみることにしよう。
(1)経済成長率
2015年1〜6月期のGDPは、前年同期比で実質7・0%の成長となり、年間目標とした7・0%前後の範囲におさまっている。これを四半期別の推移でみると2014年7〜9月期は7・3%、10〜12月期7・3%、2015年1〜3月期は7・0%、4〜6月期は7・0%となっており、経済は1〜3月に落ち込んで以降はなだらかに推移しているようにみえる。
しかしこれを先進国で用いる前期比でみると、2014年7〜9月期1・9%、10〜12月期1・5%、2015年1〜3月期1・4%、4〜6月期1・7%の成長となる。これを4倍すれば年率換算となるので、中国経済は昨年10〜12月期の段階で6%近傍まで減速し、今年に入って1〜3月期は6%を割り込み、4〜6月期はやや持ち直したものの、7%を割り込んだ姿となっている。
つまり、中国経済は10〜12月期、1〜3月期と急激に落ち込み、4〜6月期にやや回復軌道に乗りかけているというのが、実情なのである。
(2)物価
1〜6月期の消費者物価は、前年同期比1・3%上昇となった。年間のインフレ抑制目標は3%前後であるから、インフレの懸念はないようにみえる。しかし、6月は豚肉価格が7・0%上昇(7月はさらに16・7%上昇)しており、これが今後、消費者物価動向を大きく左右することになろう。
(3)雇用
1〜6月期の新規就業者増は、718万人となり、半年で目標1000万人の71・8%を達成した。6月末の都市登録失業率は4・04%で、年間目標の4・5%以内をクリアしている。
(4)景気持ち直しの兆候
まだ兆候の段階にすぎないが、6月の指標をみると景気の持ち直しの動きがみられる。
まず、需要面であるが、消費の伸びは前年同期比で5月10・1%→6月10・6%とやや上向いている。投資は累計なのでわかりにくいが、1〜5月11・4%→1〜6月11・4%と下げ止まった。輸出も5月マイナス2・5%→6月2・8%とマイナスからプラスに転じたが、7月はマイナス8・3%と安定していない。
その他の指標でも、工業生産の伸びは5月6・1%→6月6・8%とやや改善しているし、電力使用量も5月1・6%→6月1・8%と上向いている。
改善が著しいのは不動産市場であり、全国70大中都市のうち新築分譲住宅販売価格が前月比で上昇した都市は、5月の20都市から6月は27都市に増えた。また分譲建物販売面積・販売額も大きく回復している。もっとも、住宅市場は在庫消化の段階であり、しかも回復傾向が著しいのは北京・上海・広州・深圳といった第一線都市である。地方都市では住宅価格はまだ下落しており、不動産開発投資は1〜5月5・1%→1〜6月4・6%と、まだ上昇に転じる気配はない。
習近平総書記は、この動向を踏まえ、7月30日に党中央政治局会議を開催したが、そこでは経済情勢について、「上半期の経済成長は予期目標と符合しており、主要な経済指標はある程度反転上昇している」としながらも、「同時に、経済の下振れ圧力は依然かなり大きく、一部の企業は経営が困難になっており、経済成長の新動力の不足と旧動力の弱体化という構造的矛盾が依然として際立っている」との判断を示した。
また下半期の経済政策については、「マクロ政策の連続性・安定性を維持し、”区間コントロール“の基礎の上に”方向を定めたコントロール“を強化し、遅滞なく事前調整・微調整を進める。経済の下振れ圧力への対応を高度に重視する」としている。「区間コントロール」とは、インフレ・雇用・成長率目標の達成に重点を置くことであり、「方向を定めたコントロール」とは、財政・貸出資金を農業・農村・農民、小型・零細企業、鉄道・水利プロジェクト等に重点的に振り向けることであるが、基本的にこれまでの政策の方針を維持しているといえよう。
このように、景気回復の足取りはまだかなり弱い。あとは、株式市場がこれ以上混乱しないことが肝要であろう。また、FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを実施したときに、中国内外の資本流動がどのように変化するかも注意する必要がある。
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