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チャイナ・レポート(Web版)

預金保険制度、成功のカギは?(2015年5月15日号掲載)

日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修

 人民銀行は3月31日、「預金保険条例」の全文を公表し、5月1日から施行することを明らかにした。これにより、中国に初めて預金保険制度が導入されることになったのである。
 これまでにも預金保険制度を導入すべきという議論はあった。しかし、4大国有銀行の強い抵抗があり、なかなか実現できなかったと言われている。彼らは何故反対したのか?
 日本で大手銀行が破綻した場合、一時的に国有化し金融パニックを防ぐ手法が用いられたことがあるが、中国では元々大手は国有であり、ある意味政府の全面保護下にある。今のまま政府に寄りかかっていた方が一番居心地よいわけであり、なまじ預金保険制度ができてしまうと経営に対する責任追及が以前より厳しくなり、中小銀行救済のために保険料を納めなければならなくなるなど、彼らにとっては余計なコストが発生してしまうのである。
 このため以前から人民銀行が導入の必要性を主張していたにも関わらず、制度導入の議論は全く進展しなかった。それが何故急展開したのか?直接の原因は、シャドーバンキングの急拡大にある。
 2008年のリーマン・ショックをきっかけに発動された金融緩和政策は、過剰流動性を生み出し、シャドーバンキングを膨張させた。そもそも銀行から資金が流れ出た最大の原因は、金利規制である。中国は預金金利の上限が規制されており、なかなか改定されない。そうすると、インフレが発生すれば実質金利はどんどん低くなり、ゼロ近傍にまで行ってしまうことになる。日本の預金者はそれでも我慢強く預金を続けるだろうが、中国の預金者は利にさといので、預金を引き出し少しでも有利な金融商品に投資しようとするわけである。
 このため、シャドーバンキングの拡大に歯止めをかけるには、金利の自由化(中国の言い方では「市場化」)を急がなければならなくなった。しかし、金利の自由化が進めば、競争の激化により預金金利と貸出金利の利鞘は縮小し、中小銀行から大銀行への預金のシフトが起こる可能性がある。これに対抗して体力の弱い中小銀行が無理に高い預金金利を設定すれば、利益を圧迫し、最終的に経営破綻にもなりかねない。
 つまり、金利の自由化を進めるには、まず金融のセーフティネットを構築する必要があり、その中核となるのが預金保険制度なのである。共産党は2013年の3中全会で改革を全面深化させることを決定した。これには当然金融改革も含まれる。預金保険制度の創設は待ったなしとなった。
 今回発表された預金保険制度を見ると、まず、国有銀行の不満が大きい保険料率については、銀行別に預金保険基金管理機構(わが国の預金保険機構に相当)が経営管理やリスクの状況等を勘案して確定するとされている。人民銀行は3月31日の記者説明で、この料率は他の国より低い水準に抑える旨を明らかにした。
 次に銀行破綻時に預金者に償還される預金の限度額であるが、世界の平均がせいぜい1人当たりGDPの2〜5倍であるのに対し、中国は12倍に相当する50万元を設定した。人民銀行はこれによって99・63%の預金者の預金が全額救済されることになるとしている。この限度額は「わが国の庶民の貯蓄意欲がかなり強く、預金が一定の社会保障機能を負担しているという実情を考慮」したものだと説明されており、預金者の不安心理を和らげるのに大きな効果があろう。同時に、小口預金者が多い中小銀行の預金の大半が保護されることにより、中小銀行から大手銀行への預金シフトを防いでいるのである。
 このように預金保険制度には周到な配慮がなされており、今後は実施機関である預金保険基金管理機構がスムーズに立ち上がり、保険料をうまく徴収できるかが制度の成否のカギとなろう。

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