日中産学官交流機構 特別研究員 田中 修
筆者は2月初旬に中国を訪問し、エコノミストと意見交換したが、そこでは、中国経済に対する厳しい見方が示された。今号はそれを基に、足元の経済状態を考えてみたい。
まず、1―3月期の成長率の予想である。2014年7―9月期と10―12月期のGDP成長率はいずれも7・3%で経済の状態に変化がないように見える。しかし、これは前年同期比であり、日本をはじめ先進国の前期比による計算方法とは異なっている。
ちなみに国家統計局が試算した前期比でみると、7―9月期の成長率は1・9%、10―12月期は1・5%となっている。これを4倍して年率換算すれば、成長率は約7・6%から約6・0%に大きく落ち込んでいたことになる。これはかなり深刻な数字である。
中国の1―3月期の成長率は、一般に前期より低下する傾向がある。これは、年度予算が1―12月であるのに、全人代で予算が承認されるのが3月であるため、それまでは予算支出増を伴うような新規政策が打ち出せないことによる。このため、このままでは1―3月期の成長率は大きく落ち込み、「新常態」による成長鈍化ではなく経済が一気に「失速」する懸念が出ているのである。
個別の需要項目をみても、投資は不動産開発投資が依然落ち込んでいる。住宅価格については、北京・上海・深圳・広州等一線都市で持ち直しの傾向が現れているが、これは主に流通市場において住み替え需要が増大したことによるものであり、在庫の消化は進んでも新規投資につながるわけではない。地方政府によるインフラ投資も、国有地使用権の譲渡収入が減少したことにより財源難に苦しんでおり、2014年後半から伸び悩んでいる。過剰設備を抱えた業種の設備投資も期待できず、投資が急回復する見込みはない。
消費は比較的安定しているものの、倹約令により政府消費、高級品・高級レストランの消費が落ち込んでおり、これにより景気を反転上昇させることは難しい。
輸出の伸びは月ごとに不安定であり、12月は前年同期比9・7%増であったものが、1月には一転3・3%減となっている。世界景気を見ても、回復傾向が顕著なのは米国経済のみであり、欧州は今後ギリシャ情勢如何では再び経済が混乱する可能性もある。
また工業生産についても、過剰設備を抱える業種の淘汰はこれから本格化するわけであり、生産の伸びは厳しい。しかも、2013年と2014年の工業生産の伸びをみると9・7%から8・3%に鈍化しているにすぎないが、工業用電力使用量の伸びは6・9%から3・7%に大きく落ち込んでおり、つじつまが合わない。このため、工業生産統計には水増しの可能性があると言われており、実際はもっと落ち込んでいるかもしれない。
以上のような状況を考えると、年前半に多少の刺激策を打ち出さないと、経済成長率が大きく鈍化し、大型景気刺激策より経済構造調整・経済改革を優先する習近平指導部の経済政策に黄信号が点滅する可能性もある。2月5日に行われた預金準備率引下げは、全人代までの景気テコ入れ策第1弾であろう。
次は財政政策にプレッシャーがかかる。これまで財政部は、EUの財政健全化基準に倣い、財政赤字の対GDP比を3%以内におさめるよう努めてきた。2014年度当初予算の当初比率は2・1%に抑えられている。しかし、3月の全人代財政報告において、この比率は2・3%程度に拡大されそうである。関係者の話では、地方政府の財政支出の落込みにより、2014年度の赤字率は2・1%を下回ったようであり、これを2・3%に拡大すれば、かなりの財政支出の拡大が見込めるとのことである。
このように、足元の経済の厳しい状況下、指導部は安易な刺激策に頼らないぎりぎりの方法を模索し、現行路線を維持しようとしているのである。
|目次に戻る|