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チャイナ・レポート(Web版)

経済成長率をめぐる議論と改革の行方(2014年5月10日号掲載)

日中産学官交流機構特別研究員 田中 修

 3月に開催された全人代において、李克強総理は2014年のGDP成長率予期目標を昨年と同様7・5%とすることを報告し、承認された。しかし、これに至るまでには紆余曲折があったようだ。
 そもそも李克強総理は、マクロ経済政策の刷新をかねてより主張していた。これは、景気の上下変動に過剰に反応して短期的な景気刺激策を打ち出すことを止め、経済運営について合理的区間を設定し、経済がその範囲にあるときは、景気対策を打ち出さず経済体制改革と経済構造調整に専念し、経済が区間の上限ないし下限に接近してきたときには機動的に景気対策を打ち出すというものである。
 李克強総理は上限の基準としては、その年のインフレ抑制目標、下限の基準としてはその年の成長率目標と雇用目標を挙げている。つまり経済が上限に近づけば景気を引き締め、下限に近づけば景気を刺激することになる。
 他方で、昨年11月に開催された党3中全会では、2020年までの多くの改革目標を決定した。本年はその改革を本格的にスタートさせる重要な年であり、指導部としては当然経済体制改革・経済構造調整を優先させたい。だが、国有企業の改革を強化し、過剰設備の廃棄を進め、省エネ・省資源・環境規制を強化すれば、これらは成長の減速につながる。そこで年間成長率目標をどのように設定するかが極めて重要になってくるのである。改革推進派としては、改革をやりやすくするために成長率目標を低く設定したい。しかし、改革を望まない既得権益擁護派はできるだけ成長率目標を高く設定し、改革のスピードを遅らせようとするわけである。
 昨年12月に開催された中央経済工作会議では、「発展をGDPの増大と単純化してはならず、GDPの合理的な成長を維持するとともに、経済構造調整を推進して、経済発展の質・効率を高め、再び後遺症をもたらすことのないような成長速度の実現に努力しなければならない」とされた。これには改革派の主張が強く反映されている。2008年のリーマン・ショック時に決定された大型景気刺激策が、最終的に住宅価格の上昇・インフレ・生産能力の過剰・地方政府の債務の増大という深刻な後遺症を残したことを暗に批判しているのである。このため、2014年の成長率目標は下方修正されるのではないかという観測が生まれた。
 しかし、2014年に入ると既得権益擁護派の反転攻勢が始まった。具体的には成長率を7%〜7・5%のどこに設定するかで激しい議論が行われたのである。筆者は2月末に中国を訪問したが、改革派のエコノミスト達は、「改革を進めるためには7%で十分。7・5%に目標を設定すると経済に大きな代価を払わせるおそれがある」と強調していた。
 しかしながら、結果は7・5%と、予想されるなかでは最も高い目標値が設定された。改革派の意見は退けられた恰好である。李克強総理は全人代終了後の内外記者会見において、雇用を維持し、民生を優遇し、都市・農村住民の所得を増加させるためには合理的なGDP成長率が必要であるとし、7・5%に設定したことはやむを得ないとした。
 だが、李克強総理は同時に、「我々はGDP成長率の予期目標は7・5%前後と言ったが、前後というのは弾力性があり、やや高くても、やや低くても、我々は容認できる。我々は一方的にGDPを追求しない」とし、民生に配慮しつつも成長の質と効率を高め、省エネ・環境保護を進めることをも明らかにしている。つまり、雇用の目標が確保されれば7・5%成長にこだわらない旨を示唆したのである。
 これまでは、成長率目標は超過達成されるのが常であった。しかし、今年は最終的に7・5%を下回る可能性もあり、経済体制改革と経済構造調整の両方を睨んだ、慎重なマクロ経済運営が行われることとなろう。

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