日中産学官交流機構特別研究員 田中 修
これまで、中国の財政は比較的健全と考えられてきた。中国政府が発表する政府の債務残高はGDPの20%前後で、EUが財政の警戒ラインとしている60%を大きく下回っていたからである。ところが、2013年12月10〜13日に開催された中央経済工作会議は、経済の問題点の1つとして「マクロの債務水準が引き続き上昇」していることを挙げ、「債務リスクの防御に力を入れる」としている。いったい中国財政に何が起きたのであろうか?
(1)返済が滞り始めた地方政府の隠れ借金
問題は、中国の債務残高統計にあった。一般に政府債務残高には中央政府以外に地方政府の債務残高も含まれる。しかし中国では財政法上、地方財政には均衡主義(収入の範囲で支出を行う)が貫かれており、地方政府の借金は原則認められていない。したがって、地方政府債務はあるはずがないということで、統計上ゼロと処理されてきた。
しかし、2011年頃から地方政府に相当の隠れ借金があるのではないかとの見方が強まってきた。きっかけは2008年11月、リーマンショック時に打ち出された大型景気対策である。このとき、政府は2009年〜2010年にかけて、4兆元の追加投資を行うことを決定した。このうち、1・18兆元は中央政府、1・25兆元は地方政府が実施することとされたのである。
中央政府は国債発行が認められているので、財源調達は容易である。しかしそもそも有力な財源がない地方政府が莫大な追加投資を実施することは困難を極めた。例外的に財政部が代行して毎年2000億元の地方債が発行され、地方に財源が配分されたが、各地方政府への割当はわずかなものでしかなかった。
財源に窮した地方政府は、自らは借金ができないため、ダミー会社(「融資プラットホーム」と称される)を設立し、この融資プラットホームが銀行から借入を行い、地方政府が暗黙の保証を行うことにより建設資金を確保したのである。この借入返済が2011年後半から滞り始めた。
(2)27兆7691億元 GDPの53%に上る中央・地方政府の債務総額
事態を重く見た審計署(わが国の会計検査院に相当)は2012年にはじめて地方政府に本格的な会計検査を実施した。その結果、2011年末で地方政府の隠れ借金が10・7兆元あることが判明した。しかし、当時でさえ、この額は氷山の一角と言われていた。最も財政が苦しい末端地方政府が検査の対象から漏れていたからである。
このため、2013年に審計署は検査対象を末端の郷鎮政府にまで拡大し、大規模な中央・地方政府債務の会計検査を実施した。その結果、2012年末時点で中央・地方政府が自ら償還しなければならない債務は19兆658・59億元あることが判明した。これはGDPの36・7%である。しかし、政府の債務には、直接に償還責任を負う債務以外にも政府が保証した債務及び政府が償還責任を問われる可能性がある債務(いわゆる「偶発債務」)が存在する。これを加えると債務の総額は27兆7691・91億元となり、GDPの53・46%となる。
むろん、偶発債務の全てが政府の償還責任となるわけではない。審計署は過去の経験を参考に偶発債務から現実の償還責任が発生する比率を推計し、実際に政府が償還する債務の対GDP比率は39・4%程度であろうとしている。
(3)急速に増加する債務、警戒ラインの対GDP比60%突破は時間の問題
ただ、問題なのは債務増加のスピードである。2013年6月末には債務の総額は30兆2749・7億元にまで拡大した。わずか半年で債務が9%増加している。これを地方政府だけでみると、末端の郷鎮政府の債務の伸びは年平均26・59%に達する。この勢いでいけば、偶発債務を加えた債務総額の対GDP比が警戒ラインの60%を突破するのは、時間の問題である。
このため中央経済工作会議も、「地方政府の債務リスクをコントロール・解消することを経済政策の最重要任務とする」ことを明らかにしている。
しかし、そのためには地方財政の抜本的強化が必要であり、これは決して容易ではない。
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