日中産学官交流機構特別研究員 田中 修
習近平国家主席は10月7日、APEC首脳会議で「改革開放を深化させ、すばらしいアジア・太平洋を共に創りあげよう」と題する演説を行った。本稿では、このうち彼が中国経済の先行きについて語った内容を紹介する。
まず彼は中国の経済成長が鈍化している事実を認めたうえで、「中国経済はハードランディングになるのではないか?」「中国経済は持続的で健全な発展ができるのか?」といった疑問を提起する人もいるとする。彼はこの問いに対し、「各方面の情況を総合的に分析すると、中国経済の発展の先行きについて私は自信に満ち溢れている」と強調した。
この自信の根拠として、彼は次の4点を挙げている。
(1)中国経済の成長率は合理的区間・予期目標内にある
今年上半期の7・6%の成長は、世界の主要国の上位に名を連ねている。中国経済のファンダメンタルズは良好であり、経済成長及びその他主要経済指標は、予期目標内に維持されている。全ては想定内であり、何も意外な事は発生していない。
(2)中国経済の発展の質・効率が徐々に高まっている
中国経済の発展は、正にこれまでの過度な投資・輸出の牽引への依存から、内需とりわけ消費需要の牽引への依存に転換している。上半期の経済データからすると、内需は経済成長を7・5ポイント牽引しており、このうち消費は3・4ポイント牽引している。中国はもはや単純にGDP成長率を英雄視するのではなく、経済成長の質・効率向上を重視している。
(3)中国経済には強靭な内生的動力がある
①引き続き進行する都市化は、数億単位の中国人を農村から都市に向かわせ、更に高水準の生活に向かわせる。
②中国の教育水準は不断に向上しており、新世代の労働者は、素質がより高く、視野がより広く、技能がより優れた現代化・専業化された人材に成長する。
③中国は科学技術と経済の緊密な結合を推進し、科学技術イノベーションと新興産業の発展を推進する。
④中国が不断に開拓している内需・消費市場は、巨大な需要と消費動力を発揮する。⑤中国は発展の成果を更に広範な地域・民衆に及ぼす。これらはいずれも、中国経済の発展を推進する強靭な内生的動力に転化することになる。
(4)アジア・太平洋の発展の見通しは良好である
アジア・太平洋各国の共同の努力の下、アジア・太平洋地域の資金、情報、人員の流動は既にハイレベルに達しており、産業の分業は日増しに明瞭となり、アジア・太平洋市場の形が出来てきている。新たな科学技術革命と産業革命は、アジア・太平洋地域に優位性をもたらす。
このように述べたうえで習国家主席は、「私は中国経済の持続的で健全な発展について、確固とした自信を抱いている。同時に、需要の下降、生産能力の過剰、地方債務、シャドーバンキング※等の問題・試練について、私ははっきりとした認識を維持している」と語り、このような問題に対しては必要な措置を採っているとしたが、この演説の目的は、世界に広がっている中国経済のハードランディング、金融リスク顕在化への懸念を払拭することであった。7月以降主要経済指標が改善し、7ー9月期の成長率が好転する可能性が高まり、年間7・5%の成長率目標が射程距離に入ってきたことが彼の強気な発言の背景にあろう。①大きな景気刺激策を打ち出すことなく経済の下降に歯止めをかけることができたこと、②9月は例年資金が逼迫する時期であるが、6月末のような短期金融市場の混乱を回避できたこと、が一定の自信につながっているものと思われる。
※前号を参照
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