日中産学官交流機構特別研究員 田中 修
6月20日に上海の短期金融市場金利が急騰し、市場の流動性が一時的に逼迫して以降、にわかに中国のシャドーバンキング及びその重要構成部分である理財商品が世界の注目をあびることになった。
シャドーバンキングには確立された定義があるわけではなく、国ごとに、その金融制度の成熟度によっても範囲が異なる。人民日報の定義では、「シャドーバンキングは、通常の銀行ではない金融機関が行う金融仲介業務を指す」とされ、さらに、「中国で通常の銀行システム外で行われる金融仲介業務には、銀行と信託会社の協力による資産運用(いわゆる『理財商品』)、地下銀行、企業への小額融資、質店、民間の金融業務、私募債への投資、リスクヘッジファンドといった通常の銀行でない金融機関が行う資金貸出業務が含まれる」としている。
シャドーバンキングの中でも、特に問題とされているのは理財商品であり、これは銀行窓口等で顧客に販売されている。銀行業監督管理委員会は理財商品の資金残高は本年6月末には9・85兆元に拡大しているとする。
理財商品は、元本非保証型が6割を占め、投資リスクは顧客が負担するので、資産・負債ともに銀行のバランスシートに計上されない。満期構成は全体の8割が6ヵ月未満であり、収益率は約5%程度である。理財商品で集められた資金の多くは、地方政府の融資プラットホームが発行する債券(城投債※1)や不動産開発に投資されている。
シャドーバンキングの総規模は定かではないが、中核である理財商品と信託商品の総額は、社会科学院によれば2013年3月末で16・9兆元となる。これに企業同士が貸し付ける委託融資、資産担保証券などを含めた広義のシャドーバンキングについて、米ムーディーズ・アナリティックスは12年末で29兆元に達すると試算している。
では、シャドーバンキングはなぜ急拡大したのであろうか?
第1に、理財商品の発達は金利規制の結果でもある。現在、預金金利は3%と低く固定されており、個人投資家はより高いリターンを求めて資金を預金から理財商品にシフトさせている。
第2に、銀行は貸出については、預金の75%を上限とされるなど、監督当局から様々な規制を受けている。しかし、(非元本保証型の)理財商品は簿外業務※2なので、当局の監督を逃れて資金を融通できる。
第3に、現在地方政府の融資プラットホーム向けの銀行貸出は制限されている。しかし彼らは既存債務の返済と事業継続のために資金を必要としており、城投債を発行して債券市場から資金を調達している。この城投債が理財商品に組み込まれているのである。
第4に、中国では中小企業は銀行から融資をなかなか受けられず、慢性的な資金調達難に苦しんでいる。シャドーバンキングはこの金融システムの欠陥を補う役割を担っている。
他方で人民銀行は、理財商品のリスクを次のように指摘している。
①資金がドンブリ勘定になっており、資金源と資金運用が1対1で対応していないため、銀行が異なる理財商品間で利益操作を行う可能性がある。
②短期で集められた資金が長期の資産に投資されており、理財商品を連続して発行できなければ、資金ショートを起こす可能性がある。
③商業銀行の簿内・簿外業務の境はあいまいであり、簿外業務である理財商品のリスクが簿内業務に波及する可能性がある。
④具体的な投資内容・リスク・損益状況等の情報開示が不足している。
このため、シャドーバンキングの実態を早急に解明し、業務を規範化するとともに、リスク管理を強化し、金融秩序に組み込んでいくことが必要となるのである。
※1 主に都市インフラ工事の資金調達のために発行される企業債
※2 銀行のバランスシートに記載されない業務。
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