日中産学官交流機構特別研究員 田中 修
2012年11月―14日、第18回中国共産党大会が開催され、胡錦濤総書記は8日、最後の政治活動報告を行った。また、大会終了後開催された党1中全会は、新しい指導部を選出した。今回は、この大会報告の印象を何点か述べてみたい。
第1に、科学的発展観が、マルクス=レーニン主義・毛沢東思想・鄧小平理論・「3つの代表」重要思想とともに、党が長期に堅持しなければならない指導思想とされた。このうち、鄧小平理論・「3つの代表」・科学的発展観は、「中国の特色ある社会主義」として一括され、これこそが中国の発展・進歩の根本的な方向であるとされている。
科学的発展とは、①経済社会の発展を推進し、②人間本位を中核とし、③全面性・協調性・持続可能性を有し、④
都市・農村の発展、経済・社会の発展、人と自然の調和のとれた発展、国内発展と対外開放を統一的に企画し、各方
面を併せ考慮するような発展である。
第2に、これまでの経済建設・政治建設・文化建設・社会建設に、新たに「生態文明建設」が追加された。生態文
明建設では、資源節約と環境保護が基本国策とされ、エネルギー・水・土地の消耗程度を大幅に引き下げ、利用効率・効果を高めることが強調されているほか、この部分で「海洋強国の建設」がうたわれている。
第3に、中国の特色ある社会主義の道として、「人間の全面的発展を促進し、全人民の共同富裕を段階的に実現し、富強・民主的・文明的で調和のとれた社会主義現代国家を建設する」とされている。これにより、次期指導部の課題はもはや「先富政策」ではなく、「共同富裕政策」であることが明確となった。
このため報告では、個人所得の増加を重視し、2020年までに住民1人当り平均所得を2010年比で倍増する
としている。だが、そのためには大胆な所得分配制度改革が必要となろう。
第4に、経済発展方式の転換とは、経済発展が、①消費需要、②現代サービス業・戦略的新興産業、③科学技術の
進歩・労働者の素質の向上・管理のイノベーション、④資源節約・循環型経済、⑤都市・農村と地域の発展の協調・相互作用に更に多く依存することであるとし、従来の「3つの転換」(①から③まで)から、より内容を豊富にしている。
第5に、小康社会を全面的に実現するには、「時機を失さず重要分野の改革を深化させ、科学的発展を妨害する全ての思想観念と体制メカニズムの弊害を断固として除去しなければならない」とされている。
現在、改革は最後の岩盤にぶつかっており、既得権益層の激しい抵抗に遭い停滞している。次期指導部で改革が進
まなければ、中国経済は「中等所得の罠」に陥ってしまうとの危機感が背後にあるのであろう。
しかし、今回決まった政治局常務委員の顔ぶれは、むしろ既得権益層の代表が多く、改革が大胆に進むかどうかは
疑問である。特に問題なのは、報告の中で「国有経済の活力・コントロール力・影響力を不断に増強する」とされていることである。リーマン・ショックを契機とした大型景気対策により、国有企業に大量の資金が流れ、「国進民退」と呼ばれるような情況が出現し、国有企業を中心とした産業の再編も進められている。他方で、国有独占企業の弊害も指摘されている。しかし報告では、国有企業改革を更に力強く推し進める姿勢が見受けられない。改革については、今後、2013年秋の党3中全会に向けて、習近平指導部が大胆なプランを打ち出せるかどうかが、1つの試金石となろう。
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